第4回 神職になるにはどうすれば?
神職になりたい! と、生涯で一度でも思ったことがある人はあまりいないだろうし、このサイトの読者に中高生がいるかといえばほとんどいないだろうから今回のテーマ「神職になるにはどうすれば?」はあまり興味を持ってもらえないかもしれない。
ただ、神職ってどうやってなるんだろうなとぼんやり考えたことがある人ならそれなりにいるかもしれないので、そんな一部の人に向けて書いてみたいと思う。
知識として持っておくことは無駄ではないし、話のちょっとしたネタくらいにはなるかもしれない。
なお、今回の内容はネットから得た情報や神職の友人から聞いた話を元にしているので一部間違っている可能性があります。神職でもない一個人のコラムとして軽く読み流してください。
たとえば高校生に、神職になるにはどうすればいいんですか? と私が訊かれたとしたらこう答える。
東京都の渋谷にある國學院大學(公式サイト)の神道文化学部神道文化学科(公式ページ)か、三重県の伊勢にある皇學館大学(公式サイト)の神道学科(公式ページ)に入学して4年間通って卒業するのがいいですよと。
え? 二択? と驚いた人もいると思うけど、実際にそうなのだから仕方ない。
國學院が偏差値50くらい、皇學館が偏差値42くらいなので、入ること自体はそれほど難しくない(と思う)。
入試問題は見たことがないので知らないのだけど、そもそも倍率は高くないだろうし、専門学科だからといって芸大入試のように何か一芸に秀でていないといけないというわけでもない。
しかし、この二択しかないのはいかにもきついということで、他の方法もいくつか用意されている。
たとえば大学を卒業して社会人をやっていたけど突然、神社に目覚めて神職になりたいと思いついたとする。
そういった人たちのために國學院大學と皇學館大学は1年制の神道学専攻科を設けている。
これも入るのは難しくないようで、簡単な小論文と面接によって合否が決められる。
まあ、必要最小限の知識ややる気を見せないと入れてもらえないかもしれないけど。
大学を出てないのでそれも無理という人の最後の砦が2年制の神職養成所だ。
國學院大學別科神道専修(東京都)、志波彦神社鹽竈神社神職養成所(宮城県)、出羽三山神社神職養成所(山形県)、神宮研修所(三重県)、熱田神宮学院(愛知県)、京都國學院(京都府)、大社國學館(島根県)の7ヶ所ある。
しかし、これには罠というかからくりがあって、一般人が簡単に行けるようにはなっていない。
ここに入所するためには神社本庁からの推薦状が必要となる。
推薦状? 神社本庁に行って申し込めばもらえるの? と思うとそうではなく、まずはどこかの神社の宮司に推薦状をもらうための推薦状を書いてもらわないといけない。その推薦状を神社本庁へ提出して初めて神社本庁の推薦状がもらえる。
じゃあ、近所の神社へ行って宮司を捕まえて推薦状をください! と頼めばいいかといえば、そんなはずもない。見ず知らずの人間がいきなりやってきて推薦状を書いてくれといわれて簡単にいいですと承諾する宮司はいない(たぶん)。
つまり、この方法で養成所に入ろうと思えば、どこかの神社の宮司と相当親しくなって信頼関係を築いて推薦状を書いてもらわなければいけないということだ。
そんなの無理じゃん! と普通思う。確かに無理だ。
これは要するに非常に限定的なシチュエーション、たとえば宮司が高齢でやめることになって後継者として誰かを指名するとか、家が代々神社の社家で、その息子なり娘が神社を継ぐといった場合に限られるということだ。
そういった場合のもう一つの方法として國學院大學や皇學館大学、一部の神社庁が年に2回行っている1ヶ月の神職養成講習会というのがある。
ただしこれも、宮司の推薦状と都道府県の神社庁の推薦書が必要で、なおかつ奉職する神社があらかじめ決まっている場合の特例措置なので、一般人は無理だ。
実家が神社(櫻田山神社)で神職の資格を取った狩野英孝もこのパターンだったと思う。
更にもう一つ、ユニークな方法がある。それは大阪國學院でのみ行われている神職の通信教育だ。
やった! 通信教育なら! と喜ぶのは早い。たぶんこれが一番難しくてハードルが高い。
宮司と都道府県神社庁長の推薦状が必要なのはもちろん、奉職する神社が決まっていて、なおかつ大学や養成所に通えない事情がある場合に限られるからだ。
仕事で養成所や講習会に通えないとか、急遽神社を継ぐことになったとか、そういう人でないとそもそも受講できない。
通信教育で空手をマスターするようにはいかない。
これらをすべて取り仕切っているのが、神社本庁(公式サイト)という組織だ。
ただ、神社本庁は民間の宗教法人だから、神職といっても民間の資格でしかない(国家資格などではないということ)。
神社本庁を好むと好まざるとにかかわらず、神職になるためには神社本庁に認めてもらうしかないという現実がある(神社本庁様に逆らってこの業界でやっていけると思うなよ的なところがある)。
ウルトラC的な方法として、神社本庁に属していない神社独自の神職になる手もあるにはある。
数は少ないけど、探せば全国に何ヶ所かはあると思う。
愛知県でいうと、一宮市の尾張猿田彦神社(公式サイト)がそうだ。あそこは独自の神職養成カリキュラムがあって、そこで講習や実習をこなせば尾張猿田彦神社(限定)の神職になることができる。
もっといえば、いっそのこと自分で神社を建てて、自分がそこの宮司になってしまうというのもありだ(宗教法人格を取るのはまず無理だけど)。
神職の資格などあってないも同然といえばそうで、自称でも神職は神職と言えなくもない。
ところで神職(しんしょく)とは何ですか? という問いに正確に答えられる人がどれくらいいるだろう。
私もあまり自信がない。
一般的によく言われるのが神主(かんぬし)という呼び名だろう。しかし、神主という役職はない。神官という役職名もない。
宮司とか禰宜(ねぎ)とかは聞いたことがあると思う。
細かくいうと、上から宮司(ぐうじ)、権宮司(ごんぐうじ)、禰宜(ねぎ)、権禰宜(ごんねぎ)となる。ここでいう”権”は”副”という意味だ(副社長みたいなこと)。
伊勢の神宮(公式サイト)などの大きな神社では大宮司と少宮司のような格付けがあったりもする。
女性の巫女(みこ)は神職なの? と思うと、そうではない。神職を補佐するのが巫女の役割で、巫女の養成学校のようなものはない。
なので、神社の巫女さんの多くは巫女の装束を身につけて神社に奉職する女性ということになる(期間限定のバイトも多い)。
少数ながら代々巫女家の女性が神社にフルタイムで奉職することもある。
こういった神社における役職の他に階位というものがある。
これも神社本庁が(勝手に)決めた階位なのだけど、上から浄階(じょうかい)、明階(めいかい)、正階(せいかい)、権正階(ごんせいかい)、直階(ちょっかい)の五段階がある。
4年制の國學院大學や皇學館大学を卒業すると、上から2番目の正階の資格を得ることができる。
更に國學院大學では6ヶ月の明階総合課程を修了することで明階の資格を取得でき、皇學館大学では6ヶ月の明階総合課程に加えて明階検定に合格すると明階の資格を得られる。
養成所などではその一つ下の権正階からのスタートなので、そこでいきなり差がつくことになる。
警察でいうキャリアとノンキャリアの違いのようなものだ。
たぶん内部では学閥みたいなものもあって、國學院を落ちて皇學館だったりするとちょっと肩身が狭かったりするかもしれない(想像です)。
俺、通信出身なんだよね、というとむしろカッコイイかも。
さて、めでたく大学に4年間通って卒業を迎えるとなったとしよう。
いよいよ就職ということになるのだけど、これがなかなか難しいというか、希望通りにいかないのが実情らしい。
端的に言えば、人気の神社は競争率が高いし、人気のない神社は誰も行きたがらないということだ。
家から通いやすいからあの神社がいいですとか、自分は伊勢の神宮じゃなきゃイヤだとか、そんなわがままが通るはずもない。
そもそも神職は圧倒的に数が足りてなくて、慢性的な人手不足に陥っている。
神社本庁と包括的な関係にある神社だけで8万社あるのに、宮司は1万人ほどしかいない。
単純計算して宮司一人が8社の神社を兼務していることになる。実際には何十社も一人でまかなっているところもあるという。
神職全体でも2万人ちょっとなので、全然足りていないことが数字からも分かる。
じゃあ、どこも引く手あまたかというとそうでもないのが難しいところだ。
いきなり新人に神社を任せてやっていけるはずもなく、何年かはどこかで修行のようなこともしないといけない。
受け入れられる神社の数は限られているし、毎年そうそう空きが出るわけでもない。
ただ、いったんは神職として奉職したものの、現実に打ちのめされて(狭い世界なので人間関係もややこしいらしい)やめていく人も少なくない。なので、選り好みさえしなければ就職自体は難しくないようだ。
一方で神道学科を出ても最初から一般企業に就職したり公務員になったりする人もいる。
神社に奉職しつつキャリアアップを目指す人もいるし、そうでない人がいるのも、一般企業と変わらない。
神職だからといってなにも特別神聖な職業というわけでもない。サラリーマンとさして違わない。
違うのは給料だろう。
はっきり言って高給は期待できない。
全国の平均年収は297万円と、300万円に届いていない。
地方公務員の平均年収が600万円を超えていることを思うとその半分でしかない。もちろん、年2回のボーナスもない。
地域差はあるようだけど、宮司になったとしても月に40万円程度のようで、上限は60万円と決められている。
参拝者数や収入と給料は連動していない。人気神社の神職が高給をもらえるわけではないということだ。
安定的に30万円ももらえれば充分という人はいいだろうけど、もっと稼ぎたいという人にとって神職はあまりおいしい仕事ではないかもしれない。
最後に仕事内容について見ておこう。
神職って毎日何やってるの? とか、忙しいのか暇なのかどっちなの? というのは素朴な疑問としてあると思う。
私が知る限り、忙しいといえば忙しいし、そうでもないといえばそうでもない。
すごくムラがあるというか、忙しい時期とそうではない時期がはっきりしていて、休みもあるといえばあるしないといえばないので、安定はしていない。
週休二日で9時から17時まで働いて終わりというわけにはいかない。
小さい地方神社の神職の多くが他の仕事と兼務しているので、そちらの仕事との兼ね合いもある。
日常的な仕事としては、受け持ち神社の清掃、整理、修繕や、祝詞を読んだり、細々とした事務仕事をしたりといった感じだ。
それに加えて年中行事や神事、祭事などがある。
地鎮祭や神葬祭、結婚式や七五三、宮参り、例祭など、行事のたぐいはけっこう多く、年末年始は特に忙しい。
年に一度の例祭(二度あるところもある)も受け持ち神社で重なっていると一日で何社もやらないといけない。
氏子さんとの打ち合わせとか、近所回りとか、会合とかもあるし、出張も多い人は多い。
神職ということであまりおおっぴらにやれないこともある。暇だからといって昼間からパチンコをしていたりすると評判が下がるし、高級車を乗り回したり、派手な格好をしていたりしても体裁が悪い。
基本的に神職らしく振る舞わなくてはいけないということでいうと、やはり人を選ぶ職業だとは思う。
國學院や皇學館を出た人たちによると、神社とは無関係の学生も多いようなので、家や親族が神社と無関係だからといって神職になることをあきらめることはない。
近年は女性の神職も少しずつ増えてきている。女性にとってはまだまだ超えなければいけない壁が多くて大変らしいけど、個人的な印象をいえば、女性が宮司(神職)の神社はやはり女性らしくなっていいと思う。
名古屋でいうと、中区大須の三輪神社(公式サイト)や北区の別小江神社(公式サイト)などは女性の宮司(神職)らしい華やかな神社で、人を呼ぶアイディアに溢れていて人気を獲得している。
パワースポット巡りだとか、御朱印ブームなどは、個人的に悪い印象を持っていない。
神社も人が集まってなんぼだからだ。
逆に、犬を境内に入れるなとか、子供のボール遊び禁止などの注意書きが多い神社はもったいないなと思う。神社は神聖な場所ではあるけど、同時に社交場でもあることを考えると、犬の散歩途中の人と参拝者が立ち話をしたり、子供が駆け回っているくらいがちょうどいい。
神社を支えてきた氏子たちの高齢化や人手不足で支えきれなくなって合祀したり廃社になる例が増えている今だからこそ、若い世代の神職が神社を支えていく鍵となる。
もう少し広く門戸を開いて神職を育てていく必要があるように思う。
大学が二択ではちょっと厳しいし、高卒でもそのまま神職になれる道があるといい。
将来に希望が持てるように、もうちょっと給料もあげてやってくださいと頼みたい。