天神社(千音寺)

古い歴史を伝えようとする小さな声

千音寺天神社

読み方 てんじん-しゃ(せんのんじ)
所在地 名古屋市中川区富田町大字千音寺字供木4439番地 地図
創建年 不明
社格等 村社・十四等級
祭神 天穂日尊(あめのほひのみこと)
アクセス

・JR関西本線「春田駅」から徒歩約40分
・駐車場 なし

webサイト  
オススメ度

 名古屋市の西北端にある千音寺(せんのんじ)。西は今のあま市、かつての七宝町と、北は大治町と接している。
 かつてここは富田荘と呼ばれ、尾張の米どころだった。
 七宝町、蟹江町、大治町、甚目寺あたりの広大な荘園で、平安時代中期の11世紀後半に成立したとされる。
 近衛家などが領した後、鎌倉時代は鎌倉の円覚寺(web)に寄進された。
 円覚寺が所蔵する富田荘絵図は、室町時代初期の1338年に作成されたとされる。
『愛知縣神社名鑑』はそのあたりも含め、この神社についてこう書いている。
「この地は富田の荘と称して尾張穀倉の中心地で土地豊穣良米を産出する。弘安五年(1282)執権北条時宗、鎌倉に円覚寺を建て富田の荘を寺領として二百有余年領有する。天神社も同寺の末寺長禅寺が別当となり、国司自ら祭典を行ったという。『尾張徇行記』に境内三畝歩除地とあり、明治初年の制度改めにより長禅寺を離れたが由緒等の古文書等は昭和二十年五月の空襲により烏有に帰す。明治五年七月、村社に列格した」

 千音寺村が村としていつ成立したのかはよく分からないのだけど、集落の歴史としてはかなり古いかもしれない。
 村内の赤星神社は『尾張国内神名帳』に載る「正四位赤星名神」(または従二位)とされる古社で(異説あり)、圓乗寺は939年に比叡山延暦寺15世の延昌が創建したとされる古刹だ。
 圓乗寺の創建時の号が千如山音教寺だったことが千音寺村の村名の由来ではないかと思う。それ以前は赤星村(あかぼしむら)だったという話がある。
 円覚寺の末寺だったという長禅寺も古く、奈良時代初期の710年に創建されたともいわれる。
 これらを考え合わせると、この千音寺の天神社も平安時代末か鎌倉時代あたりに建てられた可能性がある。
 古文書が戦中まで残っていたというなら、いくら紙の記録は焼けてしまったとしても人の記憶は残っているはずで、もう少し詳しい由緒が伝わっていてもよさそうなのだけど、戦争で神社の歴史どころではなくなってしまったということだろうか。

 祭りのときに撮られた写真を見ると、神社前に立てられた幟に「天穂日天神社」と書かれている。
 アメノホヒ(天穂日)を単独で祀っている神社は名古屋ではかなり珍しい。私の知る限りでは、他には瑞穂区浮島町の浮島神社くらいだ。
 アマテラスとスサノオの誓約(うけい)で生まれた五男三女神のうちの一柱なので、五男三女神として祀っているところはたまにある。
 アメノホヒは、アマテラスの勾玉から生まれたとされ、アメノオシホミミ(正哉吾勝勝速日天忍穂耳尊)の弟に当たる。
 葦原中国(地上界)を平定するために出雲のオオクニヌシ(大国主神)のところに派遣されたのだけど、オオクニヌシのことを気に入って地上に住みついて3年も戻ってこなかったとされる神だ。
 出雲ではアメノホヒの子供の建比良鳥命(タケヒラトリ)が出雲国造などの祖神となったとしている。
 名前に穂が入ることから稲穂の神とされ、古くは多くの神社で祀られていたのではないかと想像する。ただ、時代の流れと菅原道真の天神信仰とも混ざってしまう中でだんだん忘れられていったのではないだろうか。
 天神社という名前を変えず、祭神もアメノホヒのままとしている神社は、やはり例外的な存在だ。

 神社が建っているロケーションがなんとなく不思議な感じを受ける。
 境内の周囲が円形の掘のようになっていて田んぼのような空き地のようななのだけど、低い円墳のようにも思える。あるいは、池の中に浮かぶ小島のようでもある。
 現在は西側に鳥居があり、社殿は南を向いている。南側はすとんと土地が低くなっているものの、かつては南側に入り口の鳥居があったのではないかと思われる。池の中の島だったら橋が架かっていただろうし、そうでなければ階段があっただろう。
 近くには高速道路やジャンクションがあって、このあたりの地形は大きく変わっているため、かつての姿を想像するのが難しい。平安や鎌倉の頃は、周囲に高いところが何もないだだっ広い穀倉地帯だったのだろう。今でも海抜0メートル地帯なくらいだから、更にさかのぼればこのあたりまで海だった時代もあっただろうか。
 古い神社の名残をわずかにとどめながら現代まで生き延びた神社、そんな印象を受けた。歴史を伝えようとするささやき声は小さすぎて残念ながら私には聞き取ることができなかった。

ブログ記事(現身日和【うつせみびより】)

 

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