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神社検定って役に立つの?

第5回 神社検定って役に立つの?

 世の中に検定と名のつくものは数多ある。
 正式な資格が取れるものだけで1,000以上あるというから、お遊び系やちょっとした地方の検定などをあわせると数千とか1万以上あるのかもしれない。
 その中に「神社検定」(公式サイト)というものがあるのをご存じだろうか。
 正式名を「神道文化検定」といい、主催は例によって神社本庁(公式サイト)だ。
 神社好きの界隈ではわりと知られているのだけど一般的な知名度は低そうだ。
 今回はこの神社検定をテーマに書いてみたいと思う。

 第1回が行われたのが平成24年(2012年)のことなので、歴史はまだ浅い。
 1回目は最初ということで参級(3級)のみだった。
 続く第2回で弐級(2級)が、第3回から壱級(1級)も加わり、現在は初級も追加されている。
 私が参級を受けたのは2018年で、そのときが第7回だった。
 名古屋神社ガイドを作り始めたのが2017年の2月だから、その翌年のことだ。
 たぶん、2017年時点で神社検定というのがあることは知っていたと思うのだけど(友人から聞いて)、その年は受けようという気持ちはまったくなかった。
 それが翌年どうして受ける気になったのかといえば、一緒に神社を巡っていた友人と話しているときに神社検定の話題が出て、それじゃあ一緒に受けてみようかという流れになったのだと思う。
 神社のサイトも作っているのに神社検定の級も持ってないのはどうなんだみたいな気持ちもあった。

 参級は神社や神道に関する一般的な知識で答えられるレベルなので、それほど真剣に勉強はしなかった。指定のテキストを読んで、過去問で傾向を確認するというのを試験前にひと月くらいやっただろうか。
 結果は98点だった。
 この頃までには友人と一緒に壱級合格までやると決めていたので、翌2019年に弐級を受けた。
 弐級はちょっと真面目に勉強しないと受からないレベルなので、3ヶ月くらいはしっかり勉強して、かなり追い込んだので自信はあったにもかかわらず結果は97点で、がっかりしたのを覚えている。このときはわりと本気で満点を目指していた。
 これで火が付いて翌年2020年の壱級は大真面目に勉強をした。大学受験のときよりやったくらいだ。
 しかし、まさかのコロナで検定が中止。
 当時は会場試験だったので、仕方がないといえば仕方がなかったのだけど、まだ大流行の前でやれるだろうという思いはあった。
 あのときの脱力感は忘れられない。一気にやる気を失った。
 翌2021年もコロナは続いていてどうなるんだろうと思っていたらオンラインという形で行われることになった。
 オンラインだったらカンニングし放題なんじゃ? と思いつつ、そんなことをしても仕方がないので、気を取り直して年明けから本格的に勉強を再開した。
 検定は毎年6月に行われるので、実質半年くらいみっちり勉強したことになる。
 現実的な目標として90点以上を設定しつつ、密かに満点も狙っていた。この年までまだ誰も壱級で100点を取ったことがなかったので、自分が一番乗りになってやるのだという気持ちもあった。
 結果は98点で、ちょっとヘコんだ。
 単純なミスが1問と、ちょっと意地悪な問題があって引っかかってしまった。
 あやふやな感じで答えたのが3問くらいあってそれは正解だったので、98点は妥当といえば妥当だった。
 ちなみに、この年初の壱級100点が出た(ただ、オンライン疑惑というのはあるにはある)。
 これで目標は達成したのだけど、満点を取れなかった心残りと、検定は年によって試験範囲がまったく変わるので、翌年ももう一度壱級を受けることにした。2022年も引き続きオンラインだった。
 結果はまさかの94点。
 なんで? と、自分でも思った。
 一年近く本気で勉強して100点を目指していたのに94点はちょっと恥ずかしかった。
勘違いや問題の読み間違いも4問ほどあり、分からなかった問題も2問ほどあったので、この結果は受け入れざるを得ないものだった。

 神社検定を受けたことがない人にとって、どんな問題が出るのかはなかなか想像がつかないと思う。
 参級までは神社クイズみたいに楽しんで答えられる問題なのだけど、壱級になると専門的すぎてあまり楽しくない。神職になるわけでもないのに、ここまでの専門質期は必要ないだろうと思うレベルだ。
 ここで試験の概要について説明しておこう。
 問題は全部で100問の4択方式(マークシート)になっている。
 各級とも70点が合格ラインで、参級のみ合格者が70パーセントに満たないときは70パーセントに繰り上げられる。
 参級と弐級は併願できる(試験時間が午前と午後に分かれている)。
 壱級は弐級に合格しないと受けることができない。
 試験時間は参級が70分、弐級と壱級が90分となっている。
 長く感じるかもしれないけど、100問あるから意外と時間は余らなかった。少なくとも一度は見返さないとケアレスミスを見逃すことになるので、これより短いとちょっと足りない感じだ。

 検定用のテキストは全部で11冊あって、各級ごとにメインのテキストが決まっている。
 参級は『神社のいろは』、弐級は『神社のいろは 続(つづき)』、壱級は『神社のいろは要語集 宗教編』と、『神社のいろは要語集 祭祀編』で、それに加えてサブテキストが加わって、それは毎年変わっていく。
 更に弐級と壱級は年に4冊発行される季刊誌『皇室』の直近4冊もテキストとなって、これがけっこうやっかいだったりする。出題はわずか10パーセントながら、これをしっかり読んでおかないと100点は狙えない。
 壱級のテキストは『神社のいろは要語集 宗教編』と『神社のいろは要語集 祭祀編』が年ごとに交互にメインになるので、続けて2年受けてようやく全体を理解できるようになっている。
 テキストのタイトルから神社関係の問題が多いことは想像がつくと思うのだけどそれだけではなく、テキストは『日本書紀』や『古事記』、『古語拾遺』や『万葉集』、祭りや伊勢の神宮の式年遷宮もあって、かなり幅広い知識を問われる。
 壱級の『宗教編』などは、そのへんの神職でも答えられないんじゃないかというようなことを訊いてくる。
 式年遷宮の渡御(とぎょ)ときの行列の並び順なんて、誰が知っているというのか。
 国学の四大人(しうし)は誰でしょうとった単純なものではなく(荷田春満、賀茂真淵、本居宣長、平田篤胤)、この書を書いたのは誰でしょうとか、これらの人物の関係性がどうだとか、細かいことまで訊いてくる。そこまで知らんし、と思う。
 中でも難しいと感じるのが、間違い探しだ。
 4択なので4つの文章があって、このうち間違っているのはどれでしょうという問題は、一度疑わしいと思うと全部が疑わしく思えて選べなくなってしまう。
 今あらためて過去問をパラパラと見返してみると、ほとんど覚えていなくて答えられない。覚えたといっても、ほとんどが短期記憶だったということだ。

 受験者統計に関しては詳しいものが公式サイトに載っている。
 第1回の受検者は5,556名で、合格率は82.9パーセントだった。
 いきなり100点を取った2人は立派だと思う。
 第2回は参級受検者2,398名のうち1,692名が合格で、初の弐級は3,000名のうち合格者は966名、合格率32.2パーセントだった。
 おそらくこの年の弐級受検者の大半が前年に参級を受けた人だっただろうと思うのだけど、印象としては相当難しかったのだろうと推測できる。
 今過去問を見ると問題自体はさほど難しくないのだけど、何しろ初めてなので当然、過去問もなく、どんな傾向の問題が出るかも分からないまま手探りの状態で受けて打ち砕かれたという人が3分の2以上だったということだ。
次の第3回、初の壱級受検者は605名で合格率は27.1パーセント、弐級受検者1,345名で合格率17.3パーセントと、嘘みたいな合格率になっている。
 この頃神社検定を受けた人たちは、神社検定はかなり難しいと思ったことだろうし、そういう話が界隈で出回っていたのではないかと思う。
 しかし、さすがに低すぎる合格率に危機感を抱いたか、主催者側も少しだけ難易度を下げてきた。
過去問も発売されて、受検者側もある程度出題傾向が掴めたということもある。
 それでも第4回の壱級合格率は27.7パーセント、弐級合格率は32.1パーセントと、相変わらずの難関だったことが数字から分かる。
 その後、壱級、弐級ともに合格率は上がったり下がったりと横ばいが続く。
 第5回の壱級は46.8パーセントだったのに、第6回の壱級は25.6パーセントと、年によってバラツキがあるのは、テキストによるところも大きい。
 第7回以降の壱級を見ておくと、第7回が39.9パーセント、第8回は43パーセント、第9回は52.3パーセント、第10回は62.3パーセント、第11回が68.2パーセントと、もはや壱級もそれほど難しい検定ではなくなってきている。
 特にここ数年は過去問そのままの問題が出されることが多くなって、過去問さえやっておけば合格自体は難しくなくなった。
 受検者数に関しては、去年第11回を見ると、壱級が239名、弐級が448名、参級が1,000名、初級が542名と、かなり減少傾向にある。コロナでの中止やオンライン検定になったこともいくらかは影響がありそうだ。年配の人などはPCを持ってなかったりするだろうし。
 今年2024年は会場試験が復活してどうなるか。
 受検者の年齢層は、40代が一番多く、50代、30代がそれに続く。これはそんな感じだろうなと思う。
 神社関係だから年配の人も多そうなイメージがあるのだけど、70代以上は意外と少ない。60代はわりといる。
 10代の受検者も少しいて、その頃からこんなものに興味があるなんて偉い子たちだ。

 受験料についても書いておかないといけない。
 一言で言って高い。高すぎる。
 2,000円とか3,000円とかだったら、神社検定受けてみればと気軽にすすめられるけど、初級でさえ3,500円で、参級は5,700円、弐級は6,900円で、壱級になると7,900円もする。
 理由はよく分からないけど、だんだん値上がりしていって、もはや気楽にお遊び感覚で受けようと思える金額ではなくなった。
 テキストはそれぞれ2,000円以上するし、過去問も1,300円くらいだから、全部揃えたら相当な額になる。
 加えて『皇室』(1,760円)が4冊。
 私は勉強のために受験する検定の範囲外のテキストも過去問もすべて揃えたので、これまでいったいいくら使ったのか、考えるとぞっとする。
 完全に神社本庁に踊らされている格好だ。
 防衛策としては、テキストはヤフオクやメルカリなどの古本で入手するとか、『皇室』は受験前に図書館で借りるというくらいしかない。
 あと、早割という制度があって、早めに申し込んで検定料を払うとちょっとだけ割引が受けられる(割引率も低すぎる)。
 受かったとしても何の資格も得られない検定にこんなにお金をかけるべきだろうか? という素朴な疑問を抱いた人は少なくないと思うけどどうだろう。

 え? 何の資格も得られないの? と思ったあなた。そう、何にもないんです、神社検定って。
 合格すると合格記念の絵馬が送られてくるくらいで、何か資格やそれに準じるものがあるわけではない。
 完全に自己満足の世界だ。
 私は神社のサイト制作のためという一応の名目があったけど、そうでもない一般人が壱級まで受ける理由が何なのかは私も訊いてみたい。
 神社検定の壱級を持っていたとしても役に立つことはほとんどない。日常会話で神社検定の話が出るなんてことはまずないし、勉強で得た知識が生活の中で活きるかといえばそんなこともなさそうだ。
 私の場合は、名古屋神社ガイドを書く上でも、神社のガイドをしたりお話会をしたりするときに知識がわりと役立っているけど、それはすごく例外的で、他の人たちはなかなか役立てることはないと思う。
 神社好きや神社関係者と話をしているときに神社検定の壱級を持っていると言ったら少しは感心してもらえる程度だろうか。

 ここまで書いた上で、今回のタイトルに対して答えたい。
「神社検定って役に立つの?」
 役には立たない。でも、受ける価値はあると。
 意味がないものは無駄だとする考え方は貧しい。世の中には必要な無駄もある。遊びの部分があるから面白いとも言える。
 学校を卒業したらもう勉強しなくていいというわけではなく、学ぶことに終わりはない。
 その一つが歴史だったり神社だったり神道だったりしてもいい。
 少しでも興味があれば、まずはあまり深く考えず参級を受けてみるといいと思う。それで面白ければ弐級、壱級と受ければいいし、楽しくなければ無理にやることはない。
 一人きりだとモチベーションが保てないというのであれば、友人や知人、家族などを誘って受けるのもいい。一緒に勉強したりすると楽しいし、受験も一緒に受けて、終わった後にああだったこうだったと話が盛り上がる。
 私が5年に渡って神社検定をやって一番よかったと思えるのは、目標ができたことだった。
 ある程度の年齢になってしまうと、具体的な目標を持つことが難しくなって、毎日をなんとなく過ごしてしまいがちだ。けど、検定というひとつの目印ができると、日々そこへ向かっているという実感が持てる。ドライブの時にナビで目的地を設定するようなものだ。
 受験当日もほどよい緊張感があって、それも大人になるとなかなか味わえない新鮮なものだった。
 不合格でも受験じゃないのだから失うものはないし、いい点が取れれば単純に嬉しい。
 自己採点するときのドキドキ感とか、結果を受けての一喜一憂とか、振り返ってみると、それらは楽しかった。
 だから私はやっぱり、神社検定を受けることをオススメしたい。
 知識が増えれば神社のことももっと好きになるはずだし、参級でも神社検定を持っているのといないのとでは大違いだ。
 そして、壱級で100点を取ったら私に自慢してください。素直にすごいと賞賛できる。
 個人的には全11冊プラスアルファを試験範囲とする特級の新設を希望する。過去問を覚えるのではなく、本当の知識や理解を問う特級ができたら、喜んで受けて立ちたい。やってやろうじゃないかと。
 どうせなら合格率ヒトケタくらいの超絶難しいやつがいい。


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