個人宅のお庭にある神社で一般には開かれていないので詳しい住所などは控えるけど、この神社を採りあげさせてもらったのはひとつ理由がある。 自分の家の庭に神社を建てようと思いついたとき、どういう手続きを踏めば建てられるのだろう、とふと思ったのがその理由だ。 実際に建てたいと思ったわけではなく、その可能性もほぼないのだけど、神社好きなら一度くらいは考えたことがあるかもしれない。それでちょっと調べてみることにしたのだった。
結論からいうと、稲荷神社ならば誰でも自宅や企業の敷地に建てることは可能だということだ。日本では宗教の自由(信教の自由)が保障されており、誰に許可を得る必要もないとのことだ。 ただし、何をもって神社とするかという定義は意外と難しい。 鳥居を建てて、社を置いて、それで神社かというとそうとも言い切れない。形だけで神様が入っていないから、それを神社とは呼べない。神様がいることにするというだけでも足りない。 もし、法人格を取得して宗教法人としたいと考えているとしたらそれはやめておいた方がいい。事実上、無理だ。 数人から数十人単位でグループを作って宗教活動をして数年または十数年の実績を積んで初めて資格が得られるというのだけど、施設もきちんと作らないといけないし、維持費もかかる。宗教法人と認められるまでは税金も免除されないので、数億円以上のお金がかかるといわれる。 逆にいうと、数億円のお金があっても宗教法人格を取得するのは簡単ではないということだ。最近はほぼ許可されないという話もある。
法人格はあきらめて個人宅神社を建てるにはどうすればいいかというと、稲荷神社の場合、京都の伏見稲荷大社(web)に出向いて稲荷神の分霊を勧請しなければならない。 他の系列の神社はよく分からないのだけど、一番簡単なのは稲荷神社に違いない。これは江戸時代からそうで、だからこそ江戸時代は稲荷社だらけになったというのがある。 個人宅やビルの屋上などでも稲荷社はよく見かけると思うけど、あれはそういうことだ。 個人や企業で神社を建てようと考える場合は、たいてい商売繁盛とかだろうから、稲荷神の御利益と一致したというのもある。
伏見稲荷大社で分霊を受けることを、御神璽勧請(おみたまかんじょう)といっている。 神璽(しんじ)というのは元々は天皇の印や三種の神器を表す言葉で、そこから転じて神の璽(しるし)の意味で使われるようになった。 これは伏見稲荷大社特有のもので、稲荷勧請と呼ばれている。 実際に出向くとなったとき、まずは社なり神棚なりを用意しておく必要がある。といっても社を抱えていくわけではなく、自宅なら自宅にお迎えする準備をしておくということだ。 伏見稲荷大社に参拝に行って、ついでだから御神璽を勧請しちゃおうかなといった軽いノリで申し込むようでは断れるかもしれない。 簡単な儀式もあるので、あまりラフな普段着で行くのも考えものだ。 それで肝心の授与料がいくらくらいなのかということなのだけど、一番安い家庭用で3万円、中小企業用で5万円から7万円ほど、大企業で20万円ほどとなっている。少し以前のデータなので今はもう少し値上がりしているかもしれない。 神職さんに来てもらって儀式を行う場合は30万円から50万円ほどのようだ。 家庭用の3万円は意外にお安いか。普通の感覚でいえば充分高いけど、神社を自宅に建てようというほど気合いが入っている人間なら安いと感じるかもしれない。 値段の差は、入れてもらう御霊(神璽)の大きさによるということのようだ。もしくは、どこまで本式に儀式を執り行うかにもよる。 まずは窓口で申し込んで、書類を作り、本殿に呼ばれて玉串を捧げ、祝詞をあげてもらい、神楽を奉納してもらって、木箱に入れた神璽とともに勧請証書をいただいて帰るという流れになる。 帰宅したらその神璽がおさめられた木箱を社なり神棚なりに祀って、それで初めて神社と呼ぶことができるようになる。 伊勢の神宮(web)に行って、神札をいただいて自宅の神棚に祀るのは、これを簡略化したものだ。なので、自宅の神棚に何々神社と名づければそれも神社といえないことはない。
しかし、これだけでは神社を建てたとはいえない気がする。次に何をするかといえば、やはり鳥居が欲しいだろうということになる。鳥居があるだけでぐっと神社らしさが出る。 そんなものどこで買えばいいだと一般の人は思うだろうけど、神具類を専門に扱う店があるのでそういう店を探して買うか、石製とかがよければ石材店に注文すれば受けてくれるところもあるようだ。 鳥居もピンキリで、小さいもので15万円から30万円くらい。神社にあるようなある程度立派なものだと数百万円ということになる。 それにプラスして運搬費と建設費がかかることを忘れてはいけない。 社を置く台座も必要だし、灯籠なんかもあると雰囲気が出る。 もし外部に開放するなら、手水舎や賽銭箱も欲しい。そこまでやってしまうと、けっこうなお金がかかることになる。修繕費や維持費も計算しておかないといけない。 賽銭を集めるのも無許可でやっていいというのはちょっと意外だ。年間20万円を超えると納税の義務が生じるけど、毎日550円も賽銭を集められる神社は街中でもそう多くはないだろう。
こうしてみてみると、とりあえず100万円くらいあれば庭に神社を建てることができることが分かった。新車の軽自動車よりも安い。意外とかからないし、思ったよりもずっと簡単だ。 勧請した稲荷神には自分の好きな名前をつけていい。 とはいうものの、稲荷神はけっこう怖いというか、いったん縁を結んだら一生涯つき合わないといけないともいわれるから、自宅に呼んでしまえばもう浮気は出来ないと考えた方がよさそうだ。 他の系統の神社もこういう分霊をやっているかというと、やっていないかもしれない。伊勢の神宮も昔は同じようなことをやっていたのだけど、昭和に入ってやめてしまった。秋葉社などはやっていそうだけど、調べた限りそういう情報は得られなかったので、今はもうやっていないのか。
ここまで書いておいて身も蓋もない話なのだけど、庭に神社を建てるのはやめて、室内に神棚を祀るだけにしておいた方がよさそうだ。それなら伊勢の神宮で神宮大麻をいただいてきて、その他、氏神と好きな神社の神札も一緒に祀ることができる。 神棚というのは自分の願いを聞いてもらうために置くのではなく、自宅の中で神様に落ち着いて居てもらうためにしつらえるもので、願い事があればこちらから神社に出向いていけばいい。その方がよほど効き目があると思う。 自宅に神社を建てたからといって特別な御利益があるとも思えないのだけどどうだろう。あまり欲をかくといいことがないような気もする。 自宅に稲荷神社を建てることは意外と簡単という知識は話のネタとしては面白いだろうけど。
作成日 2018.3.11(最終更新日 2019.8.24)
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