訪ねていった2017年1月の時点ですでに廃社となっていた。 フェンスで囲まれており、入り口の扉には鍵が掛かっていた。貼り紙があり、この神社は終了したので他へ行ってくださいというようなことが書かれていた。どうやら2016年秋に廃社になり、よそに合祀されたらしい。近くの深島神社(地図)なのか、他の神社なのかは調べがつかなかった。 場所としては市営城北荘の中にあり、団地神社といった趣だ。住人でもない人間がここまで団地の敷地に入っていいものだろうかと迷うほどだ。 鳥居はないものの、流造の社はなかなか立派なもので、中規模神社の本殿でもおかしくない。 いつ誰がここに建てたのかはまったく分からない。
説明板には「宗像神社(弁天社)」とある。祭神は宗像三女神の田心姫命、湍津姫命、市杵島姫命で、説明板の最後は「城北神社」となっている。地図には宗像神社とあり、どれが正式名なのかちょっと判断がつかない。 深島神社とは100メートルほどしか離れていない。深島神社の祭神は田心姫命となっているのだけど、湍津姫命だとか市杵島姫命だとかいう説もある。 西区浄心にある宗像神社は田心姫命、湍津姫命、市杵島姫命を祀るとする。 深島神社、浄心宗像神社、城北宗像神社、この三社の関係はどうなっているのか。
名古屋城築城以前の那古野村絵図を見ると、名古屋城北東に深島神社があり、本丸の北西の堀のすぐ北に宗像社がある。深島神社はいいとして、この宗像社が今の浄心宗像神社なのかどうかというのがひとつ鍵となる。 名古屋城築城にともない、城の北側に義直は庭園を造って池の中島に弁天社を建てた。それが築城以前にあった宗像社なのかどうか。義直は宗像から三女神を勧請して三社を建てたという話もあり、ややこしくなっている。 城北の宗像神社はいつの時代のものなのか。
江戸時代が終わって明治になったとき、名古屋城はもう不要だろうということで取り壊すという話になった。しかし、ドイツ公使のマックス・フォン・ブラントがそれはもったいないと止めたこともあって、なんとか天守と本丸御殿だけは残ることになった。金シャチがウィーン万博に出展されたのはこのときのことだ。 三の丸にあった武家屋敷は取り壊され、東照宮(名古屋東照宮)や天王社(那古野神社)は城外に移された(明治9年)。 北の御庭は埋め立てられ、陸軍省の練兵場となり、明治6年に名古屋鎮台が置かれた。城北宗像神社がある位置は、この練兵場の東の端に当たる。ということは、少なくとも明治初期からこの場所にあったわけではないということだ。 第二次大戦で名古屋城やその周辺は空襲で焼け野原となった。戦後はアメリカ軍がやって来て名古屋城内は接収された。 今昔マップを見ると、戦後はアメリカ軍の宿舎のようなものが立ち並んでいるのが分かる。名城公園は戦前から一応開園しているのだけど、公園として整備されたのは戦後のことだ。市営城北荘が建ったのは昭和40年代だろうか。 ひとつ考えられるのは、この城北宗像神社は市営城北荘を建てたときに団地の守り神として創建したということだ。明治から昭和にかけての土地の変遷を見るとその可能性が一番高そうだ。もしそうであれば、団地に住むお年寄りにでも訊けばいきさつを教えてくれるだろう。 しかし気になるのが宗像神社(弁天社)となっている点だ。昭和に建てた神社で弁天社ということはないだろうから、古くからあった弁天社をここに移して宗像神社としたという可能性も考えられる。 始まりが弁天社だったとすれば、宗像社というのは後付けかもしれない。その場合、深島神社や浄心宗像神社とは無関係ということもあり得る。
もうひとつ気になる点は、社の様式だ。 上の写真で分かるかどうか微妙なのだけど、千木が外削ぎで鰹木が五本になっている。千木を地面と垂直に切るのが外削ぎで、一般的には男神を祀るとされる。鰹木の本数でいうと、男神なら奇数、女神なら偶数とする場合が多い。 名古屋の神社は社殿様式にしても鳥居の形式にしても伝統的なスタイルを守っていないところが多いのでこれだけでは決めつけられないのだけど、宗像三女神にしても弁天にしても女神なので、この社の様式は合わないということになる。
この神社が深島神社の境外社で、深島神社に合祀されたのなら、それは仕方がないことだ。 そうではなく、城北荘の団地神社で、団地住人の減少や高齢化によって守っていけなくなったのであれば、それは残念なことに思える。 深島神社の人に訊ねればもう少し分かることがあるかもしれない。 いずれにしても、こうして神社は人知れずひっそり減っていく。 今回、間に合わなかったといえば間に合わなかったけど、社があるうちに訪ねていけたということでいえばぎりぎり間に合ったともいえる。2018年現在、すでに社はなくなっているかもしれない。 合祀という名の消滅によって神社の歴史は今後ますます分からなくなっていく。だから今のうちに今ある神社を全部回っておかないといけない。50年後、100年後のためにも。
作成日 2018.4.6(最終更新日 2019.1.14)
|