江戸時代前期の1646年から1649年にかけて熱田沖の伊勢湾を干拓で埋め立てて熱田新田を作り、一番割から三十三番割に分割した。その中の十一番割の氏神がこの八劔社だ。
現住所の中川区十一番町と熱田区南十一番町のあたりがかつて十一番割だったエリアだ。番割はそんなふうに細長く縦に区切られていた。
今昔マップ（1888-1898年）を見ると、北の百曲街道と南の東海通を結ぶ南北の道沿いにあったことが分かる。少し西には中川が流れていた。
『愛知縣神社名鑑』はこう書いている。
「尾張藩祖徳川義直、慶安二年（1649）熱田新田を完成す。新田開発し住民急増し諸所に氏神を創祀する。享保十年（1725）、十一番割の氏神として創建する時に氏子十九軒なりと、天保九年（1838）、本社の石垣、末社矢来（垣）を新調取替え氏子三十八軒、嘉永六年（1853）、屋根葺替あり」
熱田新田が完成したのが1649年で、神社を建てたのが1725年というのだけど、75年の神社空白期間をどう考えるべきだろう。生活を確立するのに精一杯で神社のことなど考えられなかったのか、集落として小さいうちは神社は必要ではなかったのか。一家で新しくできた土地に移り住んで、これから田んぼや畑を耕して暮らしていこうとなったとき、小さな祠でもいいから何らかの神を祀ろうと思わなかったのだろうか。
江戸時代の人たちのそのあたりの感覚や発想というのがちょっと分からない。生活も軌道に乗って、人口も増えたことだし、そろそろ神社のひとつも建てようかという話になったということか。
祭神はヤマトタケル（日本武命）になっている。
少し北にある八剱町八剱社は熱田の八劔社（八剣宮/web）から熱田大神を勧請したとしているのに対して、ここ十一番割の八劔社はヤマトタケルとしている。どこから勧請したかという情報はない。
熱田社（熱田神宮/web）本社と別宮・八劔社の関係は難しくてどう捉えていいのかよく分からない。八劔大神はもともとスサノオのことだったのに途中でヤマトタケルに変えられたという話もある。熱田社の本来の祭神についても実はよく分かっていない。草薙剣を祀るために建てられたとしているけど、そうではないかもしれない。熱田社が本当のことを語ろうとしないし、昔からいろいろなことが言われてきた。
現在の熱田神宮は、熱田大神を主祭神としている。これは草薙剣を依り代としたアマテラスのこととする。
相殿神として、アマテラス、スサノオ、ヤマトタケル、ミヤズヒメ、タケイナダネを祀る。
熱田神宮別宮である八剣宮も本宮と同じ神を祀るとしている。
ちなみに、熱田神宮も八剣宮も、神宮号を得たのは明治になってからのことだ。神宮号は皇室ゆかりの祭神を祀る神社に与えられるもので、それを熱田社が江戸時代まで与えられていなかったということにもひとつの謎がある。
江戸時代の八劔社の神は八劔明神などと呼ばれていた。江戸時代の人たちがそれをどういう神と捉えていたのかは分からない。
新しく開発した土地の神として熱田大神ではなく八劔明神の方が人気があったのは何故なのか。
十一番八劔社の祭神をヤマトタケルとしたのは明治以降のことだろうか。江戸時代は単に八劔明神と呼んでいただけで、その実態が何かなどということはあまり考えなかったのかもしれない。八劔の神さんに守ってもらうというだけで充分だったということだろうか。
『尾張志』（1844年）にはこう書かれている。
「八劔社 熱田新田にあり 末社に戸部天王ノ社 池鯉鮒ノ社あり 十一番割の氏神なり」
戸部天王は南区呼続にある富部神社（とべじんじゃ）の蛇毒気神（ダドクケノカミ）を祀る社だろう。
詳しくは富部神社のところで書いたので繰り返さないけど、津島神社（web）や牛頭天王とも関係がある。
池鯉鮒ノ社は、知立市の知立神社（web）から勧請したものだろう。名古屋南西部の神社は知立社の末社がけっこうある。
もうひとつの境内社に白龍社がある。
かつて十一番割にあった池のほとりに祀られていたのをここに移してきたものだ。人工の溜め池でも龍神が棲むというのが江戸時代の人たちの認識だったのだろう。
田畑などまったく姿を消してしまった熱田新田だけど、土地と神社は残って、今に歴史を伝えている。
作成日 2017.7.10（最終更新日 2019.6.11）
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