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イエガミ《家神》

イエガミ《家神》

『古事記』表記 家宅六神(石土毘古神、石巣比売神、大戸日別神、天之吹男神、大屋毘古神、風木津別之忍男神)など
『日本書紀』表記  
別名 屋敷神、竃神、厠神、座敷童
祭神名  
系譜  
属性  
後裔  
祀られている神社(全国)  
祀られている神社(名古屋)  

そもそも家神とは何なのか?

 どこからどこまでを家神とするかは難しい問題だ。家を守る神のこととしても、神棚で祀っている神は家神とは違う。
 では庭で祀っている神も家神ではないかといえばそうとも言えない。あれは家を守る神だから家神だろうということになる。
 祖先神を家神とするのも違う気がする。
 よく知られる家神としては、竃神(かまどのかみ)と厠神(かわやのかみ)がいる。納戸神(なんどのかみ)というのもいるけど、そもそも納戸がある家が少ないので忘れられた神と言えるかもしれない。
 座敷童は妖怪のような扱いをされがちではあるけど、本来は家の守護霊といったもので、神と呼んでかまわないのではないかと思う。
 家(一族)と農耕を基本としてきた日本という国柄からして、氏神と農耕神は渾然一体で、はっきり区別するのは難しい。後に仏教的な要素も絡み合ったので余計ややこしくなった。
 古代は集落の中に氏神や農耕神を祀っていたのが、やがて家長の家の近くや家の中で祀られるようになり、それぞれの分家でも祀り、家の中の特別な場所にそれぞれの神がいるとされたというのが大まかな流れとして考えられる。
 地方色もあり、一族や各家庭の独自性もあって、家神を説明することは困難なのが実情だろう。

 

『古事記』の中の家神

『古事記』には伊邪那岐(イザナギ)、伊邪那美(イザナミ)の神生みのところで家宅六神と呼ばれる六柱の神が誕生したという記述がある。
 国生みを終えて最初に生まれたのが大事忍男神で、次に石土毘古神、石巣比売神、大戸日別神、天之吹男神、大屋毘古神、風木津別之忍男神が生まれたとする。
 それぞれの神をどういう神とするかは解釈が分かれるところなのだけど、建築物の材料や構造を表すものとされる。
 石土毘古神は石と土、石巣比売神は石砂、大戸日別神は戸や門、天之吹男神は屋根を葺く、大屋毘古神は屋根、風木津別之忍男神は風から家を守る木ということだろうか。
 どれも神社の祭神として祀られる神ではないので馴染みはないけど、家を形作るすべてに神が宿ると考えたのは日本人らしい発想だ。
 家を建てる前に行う地鎮祭や棟上げ式は、家神に対する挨拶といった意味合いがある。
 まず最初に土地を守っている産土大神や大地主大神に敬意を表して祭祀を行い、工事の安全や家が無事に建つようという祈願をする。
 土地=土の神ということでいうと、埴山姫神(ハニヤス)も祀っていると考えていいだろうか。
 土地を所有するというよりは神様が守る土地を貸していただくという意識で行われるものだ。
 上棟式は土台が完成して、柱や梁などが組み上がり、屋根の骨組みの頂部である棟木を取り付けるときに行われる。すべて完成してからではなくこのタイミングで行われることに意味があるのだろうけど、よく分からない。上棟式で餅をまいたりする地方もある。

 

門の神

 大戸日別神を門の神とする考え方もあるのだけど、門の神といえば門松を連想する。
 松は冬でも枯れない常緑樹ということで古代より神聖視されてきた木だ。神が宿る依り代とも考えられた。
 日本では平安時代あたりから始まったともいうのだけど、はっきりしたことは分かっていない。宮中で行われた子供の長寿祈願が起源だとか、中国から伝わった風習だともいう。
 正月に迎える歳神(年神)に対する目印という意味合いもあるとされる。歳神は一般的に祖先神ともされるのだけど、これも期間限定の家神といってよさそうだ。

 

竃神

 竃(かまど)は火を使うということで、竃神は火の神、火之迦具土神(カグツチ)とする考えがある。
 木造の日本家屋は火事が大敵なので、火の神に守ってもらおうという発想から来ている。家神の中では特に重要視された神といえる。
 京都の飲食店や家庭の多くで「火迺要慎」と書かれた御札が貼ってある。あれは愛宕神社(web)の神札で、火伏札と呼ばれるものだ。
 どうして愛宕神社が火伏せの神とされたのかはよく分からないのだけど、愛宕山に棲むといわれた天狗と関係がありそうだ。大天狗が火事を起こすという俗信があり、そこから来ているのではないだろうか。
 愛宕神社は神仏習合時代、愛宕権現を祀る白雲寺だった。愛宕権現は伊邪那美(イザナミ)と習合したので、今でも愛宕神社本殿の主祭神は伊邪那美になっている(他に埴山姫神、天熊人命、稚産霊神、豊受姫命)。
 迦遇槌命(カグツチ)は若宮で雷神、破无神とともに祀られている。
 奥津日子神・奥津比売命と軻遇突智をあわせて竈三柱神とする場合もある。
 仏教系の火の神として知られるのは三宝荒神だ。かつては荒神を祀る社がたくさんあり、それは神仏習合時代の三宝荒神から来ている可能性が高い。
 役小角が金剛山で祈祷しているとに荒神が現れたという話があり、日本独自の仏ともされる。髪を逆立てて怒っている姿で表現されることが多く、不浄を嫌うということから火の神とされたようだ。
 兵庫県宝塚市の清荒神清澄寺(web)が真言三宝宗の大本山となっている。
 近畿や中国地方では陰陽道の神である土公神が竃神として祀られることがある。土公神は春は竃を、夏は門を、秋は井戸を、冬は庭を守る神とされている。
 その他、地方によって竃神は様々な呼ばれ方をする。

 

厠神

 厠神、便所神は、近年、トイレの神様ということで話題になって意識されることが多くなかった神だ。一家の主人がトイレをきれいにするといいことがあるみたいなこともいわれる。
 ちなみに、一家の主人のことを大黒柱というのは、一番太い柱に大黒天が宿ると考えられたことから来ている。
 便所の神は、神道系でいうと、尿の神が弥都波能売神/罔象女神(ミツハノメ)で、大便の神が波邇夜須毘古神・波邇夜須毘売神/埴安神(ハニヤス)ということになる。いずれも火之迦具土神/軻遇突智を生んでやけどで苦しんでいる伊弉冉尊/伊邪那美の尿と大便から化生したとされる神だ。
 これらの神を便所神としたのは卜部や橘家神道の人たちだった。しかし、あまり一般的ではない。
 便所神というと仏教系の方が馴染みがある。禅宗の寺のトイレに烏枢沙摩明王(うすさまみょうおう)の絵が描かれた御札が貼ってあるのを見たことがあるという人も多いと思う。
 もとはインドの民族神だったのが仏教に取り込まれ、炎によって不浄を清めるとされたことから便所の神となった。
 地方によってはトイレに男女一対の紙雛を飾ったりするところもあるようだ。

 

座敷童

 座敷童は主に岩手県に伝わる精霊的な存在で、柳田国男の『遠野物語』によってよく知られるようになった。
 子供の姿で現れる妖怪のようなイメージが強いけど、本来は家を守る祖先神だったと考えた方がよさそうだ。
 座敷童がいる家は幸せになり、座敷童が去ると不幸が訪れるという言い伝えは暗示的だ。こういった言い伝えには何かしらの悲劇が元になった寓意が込められたものが多い。座敷童の話も例外ではないだろう。
 近年は座敷童が出ることを売りにした旅館などがあって人気を博している。その部屋に泊まるといいことがあるという噂からなのだけど、その旅館を繁盛させているという点からすると座敷童は役に立っているといえる。
 座敷童で思い出すのが、小さいおじさんだ。都市伝説で話題になるものだけど、あれはさすがに神ではないだろう。
 スタジオジブリ作品の『借りぐらしのアリエッティ』くらいかわいければいいけど、なんでおじさんなんだ。

 

家神との良好な関係

 このように家神といっても幅広く、その実体は曖昧でよく分からないというのが正直なところだ。庭の祠に祀った神は家神で室内の神棚に祀る神は家神ではないといわれても戸惑う。
 神棚についていえば、伊勢の神宮(web)の天照大神(神宮大麻)を中央もしくは一番手前に祀り、左右に氏神と崇敬神社の神を祀るのが基本スタイルだ。
 神棚は南向き、または東向きとし、頭より上の高さで、その下を人が通らないことが望ましいとされる。
 一度祀ったら毎日お世話をしないといけないから最初から祀らないというのもひとつの考え方だと思う。
 少なくとも自分の欲得や損得勘定で祀るものではない。
 家や家族を守りたい、守ってほしいと思うのは人情で、そこから家神という概念が生まれ、長い歳月をかけて育てていって今に到っている。アニミズムから始まって神道、仏教、陰陽道、民間信仰などが渾然一体となっているのが家神の実体といえるだろうか。
 人間側と神様側と持ちつ持たれつ、お互いにとっていい関係が築ければそれに越したことはない。

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